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名古屋大学 理学部物理学科

モット絶縁体Ca2RuO4の非線形伝導

 遷移金属酸化物や分子性導体では、金属化するための十分なキャリアが存在しているのにもかかわらず、キャリアはしばしばその大きな斥力相互作用によって局在化し、電荷秩序やモット絶縁体といった絶縁相を示します。そのような様子は、電子が各サイトに局在した、あたかも「電子の氷」のように呼べる状態です。それら電子の氷は、昇温だけでなく電流や電場といったパラメータによっても融解すること(電場・電流誘起の金属絶縁体転移)が最近の研究から分かってきました。このような状況は電場や電流によって増加する電気伝導率(非線形伝導)として観測できますが、その最大の問題点は電流通電時の自己発熱効果です。今回私たちは、自己発熱した試料の温度を非接触で計測できる赤外放射温度計を導入し、モット絶縁体Ca2RuO4がわずか数10 V/cmという非常に低い電場で本質的な非線形伝導を示すことを明らかにしました。電流という非平衡量によって非線形伝導が生じている状態は典型的な非平衡定常状態であり、低電場で非線形伝導を示す本物質は、未開拓の非平衡統計力学を研究するためのモデル物質としても注目できます。

本研究は、中村助教・鈴木教授(広島大学)との共同研究です。

"Current-Induced Gap Suppression in the Mott Insulator Ca2RuO4"
by Ryuji Okazaki, Yasuo Nishina, Yukio Yasui, Fumihiko Nakamura, Takashi Suzuki, Ichiro Terasaki
J. Phys. Soc. Jpn. 82 (2013) 103702.
arXiv:1309.0909.


(図)Ca2RuO4において異なる電流値で測定した電気抵抗率の温度依存性。