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名古屋大学 理学部物理学科

トライマー構造を有するルテニウム酸化物Ba4Ru3O10の単結晶X線構造解析

 d電子のもつ多自由度とそれらの間の相関効果は、遷移金属酸化物が示す多彩な電子状態を理解するための基本的概念です。さらに、複数の酸素八面体が辺共有・面共有した多量体構造を有するいくつかの酸化物では、それら多量体内の電荷自由度が系の電子状態に及ぼす影響も重要視されています。今回私たちは、Ru3O12トライマー(三量体)構造を有するルテニウム酸化物Ba4Ru3O10の単結晶育成に成功し、そのX線構造解析を行った結果、トライマーを構成する八面体のRu-O間距離が中心と両端の八面体で大きく異なることを見出しました。Bond valence sum (BVS) 法からは中心と両端とでRuの価数が0.5程度異なっていることが分かり、この結果は本物質のトライマー内において大きな電荷不均化が起きていることを示唆しています。この電荷不均化はトライマー内での分子軌道形成が関与していると考えられ、本成果は多量体をユニットとして構成する酸化物の電子状態に対する新しい理解につながることが期待されます。

本研究は、野上教授(岡山大学)、Klein氏・Rousse氏(パリ第6大学)、安井准教授(明治大学)との共同研究です。

"X-ray Crystal Structure Analysis and the Ru Valence of Ba4Ru3O10 Single Crystals"
by Taichi Igarashi, Yoshio Nogami, Yannick Klein, Gwenaelle Rousse, Ryuji Okazaki, Hiroki Taniguchi, Yukio Yasui, Ichiro Terasaki
J. Phys. Soc. Jpn. 82 (2013) 104603.
arXiv:1308.2502.


(左)Ba4Ru3O10の結晶構造。(右)Ru3O12トライマー(三量体)構造。