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名古屋大学 理学部物理学科

ナローギャップ半導体FeSb2における磁気輸送特性の圧力効果

 固体中の電子は電荷と熱を運び、電場や温度差の下では電流と熱流が生じます。この電流と熱流には交差相関が存在し、熱電効果として知られています。この熱電効果の代表的なものにゼーベック効果があります。近年、FeSb2単結晶において、-45 mV/K(10 K)という巨大なゼーベック係数が報告されました。 この巨大な値は古典的な1電子描像では説明できないため、 強相関効果と、 巨大なゼーベック係数との関係が示唆されています。 特に、 近藤絶縁体との類似性から、 Feの局在的な3d軌道とSbのp軌道の混成による特異な電子状態と巨大なゼーベック係数との関連性が議論されています。今回私たちは、この物質の電子状態と巨大なゼーベック係数の起源を解明するため、FeSb2単結晶の磁気輸送特性に対する圧力効果の測定を行いました。この測定から、この物質のエネルギーギャップの圧力依存性が、近藤絶縁体のような電子相関効果によって開いたギャップの場合に期待される変化に対して顕著に小さいことを見出しました。この結果は、この系の巨大なゼーベック係数が、 近藤絶縁体のような強相関効果に起因した特異な電子状態によるものでは無いことを示唆しており、巨大なゼーベック係数の起源を解明する上で重要な知見を得ました。

本研究は、安井准教授(明治大学)との共同研究です。

"Origin of the energy gap in the narrow-gap semiconductor FeSb2 revealed by high-pressure magnetotransport measurements"
by Hidefumi Takahashi, Ryuji Okazaki, Ichiro Terasaki, Yukio Yasui
Phys. Rev. B 88 (2013) 165205.


(図)FeSb2における圧力下での電気抵抗率の温度依存性。