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名古屋大学 理学部物理学科

ダイマー型分子性導体におけるモット絶縁体と電荷秩序の相競合

 系に内在する自由度が協力現象として示す相転移現象やその結果生じる秩序状態は非常に多彩です。分子性導体の特徴は、結晶を構成する有機分子の配列や分子内・多量体内における電荷自由度といったユニークな内部自由度を有する点であり、それにより磁気秩序や多様なパターンを示す電荷秩序といった興味深い電子相が現れます。今回私たちは、ダイマー型分子性導体β-(meso-DMBEDT-TTF)2PF6に対してSPring-8のビームラインBL43IRにて赤外顕微分光実験を行い、1つの試料内部で、ダイマー上に電荷が局在したダイマーモット絶縁相とダイマー内で電荷が偏った電荷秩序絶縁相という2つの強相関電子相が競合し、低温で空間的に不均一な電子状態が発現していることを見出しました。このことは、この系においてこれら2つの電子相がほぼ縮退していることを意味しており、本物質がそれらの相境界近傍に位置する物質であることを示唆しています。今回観測された相競合現象は、多様な内部自由度を有し、わずかな温度や外場の変化に対して電子状態が敏感に変化する分子性導体ならではの現象であると考えられ、それらの複雑な電子相図に対して新たな理解を与えるものと期待されます。

本研究は、高輝度光科学研究センターの池本氏・森脇氏、東京大学物性研究所の森教授のグループ、東北大学金属材料研究所の佐々木教授のグループとの共同研究です。プレスリリースはこちらです。日経産業新聞(11月20日)に掲載されました。

"Optical Conductivity Measurement of a Dimer Mott-Insulator to Charge-Order Phase Transition in a Two-Dimensional Quarter-Filled Organic Salt Compound"
by Ryuji Okazaki, Yuka Ikemoto, Taro Moriwaki, Takahisa Shikama, Kazuyuki Takahashi, Hatsumi Mori, Hideki Nakaya, Takahiko Sasaki, Yukio Yasui, Ichiro Terasaki
Phys. Rev. Lett. 111, 217801 (2013).
arXiv:1310.6451.


(図)β-(meso-DMBEDT-TTF)2PF6における電荷秩序相とダイマーモット絶縁相。